労災と健保の使い分け|傷病手当金と休業補償給付のちがいを1枚で整理
入口は「業務上・通勤か、業務外か」の一択。そこで制度が分かれると、待期も支給額も支給期間も全部変わります。

働く人がケガや病気で働けなくなったとき、面倒を見る制度は2つあります。原因が業務上または通勤によるものなら労災保険、それ以外の私的な傷病なら健康保険です。この入口の判断はシンプルですが、そこから先の中身は待期の数え方から支給額の計算方法までことごとく異なります。社労士試験では「傷病手当金なのに労災の要件で答えてしまう」「待期の3日を取り違える」といった失点が起きやすいところです。両者を別々に覚えるのではなく、同じ表の左右に置いて差だけを拾うのが確実です。
① 入口:業務上・通勤か、業務外か
業務災害と通勤災害は労災保険が扱い、それ以外の私傷病は健康保険が扱います。この2つは排他的で、労災の対象になるものは健康保険から給付されません。業務上と認められるかどうかは業務遂行性と業務起因性で判断され、通勤災害については合理的な経路・方法での通勤中かどうかが問われます。逸脱・中断があるとその後は通勤とされないのが原則ですが、日用品の購入など日常生活上必要な行為でやむを得ない事由によるものは、経路に復した後は再び通勤とされます。
② 医療費:労災は自己負担なし、健保は原則3割
労災の療養補償給付は、労災指定病院で受ければ現物給付として自己負担なしで治療を受けられます。これに対して健康保険の療養の給付には原則3割の一部負担金があります。「労災なら窓口でお金を払わなくてよい」というのは実務でも試験でも押さえどころです。なお、健康保険には高額療養費という自己負担の上限を設ける仕組みがありますが、そもそも自己負担のない労災にはこの仕組みがありません。
③ 待期3日:労災は通算でよく、健保は連続が必要
ここが最も取り違えやすい差分です。どちらも3日間の待期がある点は共通ですが、数え方が違います。労災の休業補償給付は、休業した日が通算して3日あれば待期が満了します。連続している必要はありません。一方の健康保険の傷病手当金は、労務不能の日が連続して3日間なければ待期が成立しません。1日出勤してしまうと数え直しになります。「労災は通算、健保は連続」とセットで覚えてください。
④ 待期中の扱い:業務災害だけ事業主に補償義務がある
待期の3日間は労災保険からも健康保険からも給付が出ません。ただし業務災害の場合だけは、労働基準法76条により事業主が平均賃金の60%の休業補償を行う義務を負います。ここで注意したいのは、この義務が業務災害に限られることです。通勤災害には事業主の補償義務がありません。労働基準法の災害補償は事業主の無過失責任を定めたもので、事業主の支配下にない通勤中の災害までは及ばないためです。健康保険の傷病手当金にも、当然ながらこの仕組みはありません。
⑤ 支給額:労災は実質80%、健保は3分の2
労災の休業補償給付は給付基礎日額の60%ですが、これに社会復帰促進等事業から休業特別支給金が20%上乗せされるため、実際に受け取れるのは合計80%になります。試験では「休業補償給付は60%」と「特別支給金を含めて80%」のどちらを問われているかを読み分ける必要があります。健康保険の傷病手当金は標準報酬日額の3分の2、つまり約67%です。数字だけを見ると労災のほうが手厚く設計されています。
⑥ 支給期間:健保は通算1年6か月、労災は定めなし
傷病手当金の支給期間は、支給を始めた日から通算して1年6か月です。かつては暦の上で1年6か月を数える方式でしたが、令和4年から通算方式になり、途中で就労した期間を除いて数えられるようになりました。一方の労災の休業補償給付には期間の定めがありません。ただし療養開始後1年6か月を経過しても治らず、傷病等級に該当する状態が続く場合は、休業補償給付から傷病補償年金へ切り替わります。「打ち切られる」のではなく「別の給付に移る」という理解が正確です。
◎ 試験対策のポイント
- ▶入口は「業務上・通勤なら労災」「業務外なら健保」。両者は排他的で重ならない
- ▶待期3日は労災が通算でよく、健保は連続していることが必要
- ▶待期中の休業補償(平均賃金の60%)は事業主の義務。ただし業務災害のみで、通勤災害にはない
- ▶休業補償給付は給付基礎日額の60%。休業特別支給金20%を足すと実質80%
- ▶傷病手当金は標準報酬日額の3分の2(約67%)
- ▶傷病手当金の支給期間は通算1年6か月。労災の休業補償給付に期間の定めはない
- ▶療養は労災が自己負担なし、健保は原則3割。高額療養費は健保にしかない
よくある質問
Q. 通勤中のケガでも、待期中は会社が補償してくれますか?
A. いいえ。事業主の休業補償義務は労働基準法76条にもとづくもので、業務災害だけが対象です。通勤災害には適用されません。労働基準法の災害補償は事業主の無過失責任を定めたものなので、事業主の支配下にない通勤中の災害までは及ばない、という理屈です。
Q. 労災の認定を待っている間、健康保険を使ってもよいですか?
A. 本来は使えません。業務上または通勤による傷病は健康保険の給付対象外だからです。認定前に健康保険で受診してしまった場合は、労災と認定された段階で健康保険側に返還し、労災保険から給付を受け直す精算が必要になります。
Q. 傷病手当金の「通算1年6か月」とはどういう意味ですか?
A. 令和4年からの取扱いで、支給を始めた日から暦の上で1年6か月ではなく、実際に支給された日を通算して1年6か月まで受けられるという意味です。途中で復職して支給が止まった期間はカウントされないため、がん治療などで働いたり休んだりを繰り返す人が使いやすくなりました。
Q. 休業補償給付は60%と80%のどちらで覚えればよいですか?
A. 両方です。休業補償給付そのものは給付基礎日額の60%で、これに社会復帰促進等事業から休業特別支給金が20%上乗せされて実質80%になります。試験では「休業補償給付の額」を聞かれているのか「実際に受け取る額」を聞かれているのかで答えが変わるので、問題文の主語を必ず確認してください。
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